科学者と詩人



 
ポアンカレ予想で有名な熊先生ことポアンカレが
同時代の科学者の個々の業績について
砲工学校などの講演内で述べたものを記録した文集です。
ポアンカレ四部作を読むのに合わせて入手したもので
初版が戦前のため、旧字体や難読漢字が多用されており、少々読みにくいのですが
とにかく読み進めて行くにつれて、文章の美しさに引き込まれます。
こんなにもポアンカレの文章表現力が巧みだったことには、正直、驚きを禁じ得ませんでした。
(訳者の平林初之輔氏の表現力が卓越しているのも多分にあると思いますが)
 
文章表現としても多々、参考、あるいは引用したくなるものも多いのですが
特に感銘を受けた部分としては
ポアンカレはこの文集内の講演で繰り返し、細分化された分野の中の専門家として落ち着くのではなく
幅広い分野へ知識・教養の裾野を広げること、万能人を目指すべきということを強調しています。

確かに、ポアンカレの時代と現在とでは、専門とする上で要求される基礎知識の量には圧倒的な差があり
一つの分野すらマトモに知らないのに別の分野など……という懸念も尤もではあるのですが
発想・思考法として、文系・理系とか専門・専門外とかという区別なく
出来る限り出来る分野は増やすために継続的な努力が必要だ、という発想は大事、と解釈すれば
偉大な数学的業績を残しつつ、一方で文章表現能力も卓越していたポアンカレという存在を前にして
そういった努力を怠る都合の良い理由はない、という警句と受け止めることも出来るのではないでしょうか。