2020-06-21

計去亡慟 No.13~No.15

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No. 13

私は誠実な人間関係を希求している。
どういうものか端的に言うと、嘘やあざけり、打算や憎悪などが介在しない関係だ。
一般的に世に広くある人間関係ってやつときたら、そういったものに満ち満ちているし、人間関係のない相手にですら、人間は面白半分に敵意や悪意を向けるものである。
そういったことに私は疲れてしまっている。うんざりなのだ。
だから、ただお互いに配慮し合い、相手の嫌がることはしない、相手が悲しむようなこともしない。
相手が望みそうなものを、押しつけがましくなく提供し合える。
そんな真心と真心のやりとりを望んでいるのだ。

だが、残念かな。立場がそうすることを許さない。
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No. 14

ウヴァリ氏と随伴の戦士たちが秘書官によって市庁舎の一角、当座の宿に案内されていき、また二人きりになれたので、私は露骨に市長をねめつけてやった。

「おいおい、そうむくれるなよ。収穫はあっただろう?
 軍人じじいの件と今の話を早めに上司に報告しとけば、それなりに評価されると思うぞ。」

ふざけんなバカ、取って食われるかと思ったわ!
だったら、事前に少しくらいウヴァリ氏についての説明があっても良かったでしょ!
聞けば、ウヴァリ氏の一族は彼の高祖父の代から、市長に至っては一回転生をまたいで、今生でも続いている付き合いらしい。ざっと130、40年くらい前からか。私のじいさまがまだバリバリ第一線だったころからと考えると、短命種族の付き合いにしては長続きしている方だ。どおりであんな大物を前にして市長もあれだけのことが言えるわけである。

「ああ、もちろん、お前さんがそこにいてくれただけでも助かったのは事実だ。
 私が聖会の、しかも造土の大物、ブレンヴェヴァ大祭幹の一族とねんごろってな具合に誤解してくれたようだ。ひっひっひ。おかげで大分こっち寄りの条件で話がまとまった。」

市長はそこで煙草に火を点け一服し、小刻みに上半身を揺らした。
このくそあま。やっぱそういうことか抜け目のないやつ。おきものにもそれなりの価値あり。大なるかなじいさまのご威光。

「だから、みなまで言わんでいい。きちんと礼はする。
 とりあえず、しばらくはウヴァリの件でどこも忙しくなるだろう。
 遺跡に関する進捗はどこも遅れるとみていい。特に商人連中はな。
 勢力図の伸縮に直接的に関わることだから、遺跡探険なんかよりもよっぽどの大事ってわけだ。
 そういうわけで、腕の立つ“組織付きの”遺跡探険者の活動は鈍る。
 はぐれ探険者で深層に潜れる奴なんてそうはいない。
 そうなりゃ、ラグも暇な時間ができて、多少は頭が冷えるだろう。その間に手を回すさ。
 どうだ、見事だろう?」

なるほど、言い訳は立っているな。頭も回れば口も回る。これは真である。
私は鼻から息を吐きながら黙って目を閉じた。市長はそれを降伏の表明と見て取ったようで、付け加えるように、またくくくと笑った。うんちうんち!

それにしても、この女市長の“辣腕“を、私は過小評価していた気がしてならない。
確かに数度の転生を経験したマインネイルにしては軽薄にすぎる性格やふるまいは、一般の政治家と比して、侮られるには十分すぎる理由かもしれない。
しかし、今までの頭のキレ具合やウヴァリ氏との関係もそうだが、やはり彼女は一筋縄ではいかない人物であることに間違いはない。そんな彼女が、こんな田舎都市のひとつごときに、何故何回分もの彼女の人生を費やしているのだろうか。
そんな疑問が頭に浮かんだので、私は反撃に、つい嫌味まじりの質問をぶつけたくなった。
どうせ、適当に笑い飛ばされるんだろうし。

「聞きます、お返しに。貴女がこだわって、何回もこんな街に人生をなんで使うのですか?
 見事にそんな腕で、仲がいい大物となら、立場がいい政治的のにもっとなれるでしょうに。」

どうだオラ。
だが、私の意地の悪い予測は外れた。当の市長が、完全に黙りこくってしまったからである。
気まずい静寂がしばらく続いた。よほど市長にとっては不都合な話題だったのだろうか。
相手の機嫌を露骨に損ねてしまったかもしれず、苦みの強い焦りを感じ始めたところ、市長は穏やかに答えた。

「……さあな、忘れちまった。何かしらの理由があったんだろうが……
 私たちマインネイルは、再誕のたびに少しずつ大昔の記憶を失っていく。
 まるっきり引き継げるってわけじゃない。
 だから、どうしてもちょっとずつ変わっていく。名前とか性分とかな。」

市長は少し自嘲気味な様子だった。彼女の眼は私を捉えておらず、どこか遠い場所を見ているようだった。

「かくいう私もそうだ。バドンナルってのは多分、元々の名前とは違うんだろうな。
 ただ音の響きが近いってだけかもしれん。」

だが気に入っている、と付け加えて彼女は一服して再び黙った。
ほんの少しのズレだったとしても、遅れ時計というものは、いずれ昼に夜を示し、夏に冬を告げるようになる。
私は彼女の心情に任せ、話が先に続くのを待った。

「……いずれにせよ、私がこの塩の身体でもってずっとこの辺で生き死にしてきたってのは確からしい。
 だから、多少の愛着はある。それをぽっと出の遺跡一つにひっかき回されるのは我慢ならん。
 今回はそれで納得しておけ。」

鉄の女、もとい鉄をまとった塩の女は、照れくさそうに話を切った。
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No. 15

「……サレーヴ諸部族同君連合国の君主は、6年ごとに氏族単位での模擬戦を行って継承順位を決める。
 つまり、皇帝はそのとき最も強い氏族の長ということだ。単純で野蛮な話だな。
 で、ググロ・ガ・ウヴァリは、前回のそれで「狂紳士」の二つ名を得た。
 この継承戦争では当然、相当数の死傷者も出るわけだが、特例的に加害者が免責される。
 その制度を利用して遺恨のあった複数の有力者を氏族の主戦力ごと“再起不能“にして早々に棄権している。
 冷静に狂った動きだな。思いついても実行するにはある種の才能が要る行為だ。
 その後は中央の政治から距離を置きつつ、比較的温厚な統治をやっているとのことだ。
 光報の外交官の評価も悪くはないようだな。
 尤も、そもそも彼の名である“ウヴァリ”は、ウォーモンガーで悪名高い彼の高祖父、
 「岩穿ちのウヴァリ」から継承したものだ。 熾烈な骨肉の命名権闘争に勝利してな。
 その点から本質的には非常に好戦的で冷酷であろうことが予想される。
 手強いとみてよいだろう。」

交信の樹符越しの声は明確な不快感を発していた。だが、私への普段の冷笑的な態度とは違い、ヤツの口ぶりからは、敵に対してのある種の尊敬が感じ取れた。案外、この男はよくいる彼我の力関係に鈍感で傲慢な秀才どもとは違ってまともな感性持ちかもしれない。

「ともあれ、ご苦労だった準祭枝。先ほどの解放協約の動きの件と良い、おそらく君の報告が最速だ。
 大祭幹殿もお喜びになるだろう。
 期待してもいなかったが、少しはロドデンドロの家名に恥じぬ働きをしたな。ふふふ」

前言撤回!
担当官の嫌味は相変わらずであったが、報告内容自体の価値は認めたらしく、奴にしては手放しの賞賛であったようには思われた。
だが、続けざまに放った奴の言葉に私は凍り付いた。

「しかし、そのような事態であれば、キミの38号遺跡の調査の継続は困難ではないか。
 状況経過いかんによっては、カラコルテ市内に旗藩の軍が置かれることも考えられる。
 そうなれば、商人連中と市の防衛隊とのみつどもえの武力衝突の可能性もなくはない。
 また、いずれかの勢力に市ごと摂取されるということになり、キミが捕縛されたとして、
 機密保持のために自死を選ぶなどできまい。
 より政治工作に慣れた人員への担当替えも視野に入れる必要があると思うが。」

つまり、聖務を放棄して帰投せよ、と?
よくよく考えてみれば、この誘いは良いチャンスだった。こんな荒事とおさらばして内勤に戻れる千載一遇のクモの糸。だが、我ながら何を思ったのか、私は即答したのだ。

「いえ、しきるまで聖務をやります。お気遣いなく。」

おそらく、意地と別の意味合いでの保身と、友人たちへの感情などの混合物が、私の頭の中の口述を司る部位に対して悪さをしたのであろう。ばかぽんこつ!
向こうは少しの間沈黙し、それから若干トーンの落ちた声が返ってきた。

「……ふん。荷が勝ちすぎているのではないか? まあいい。
 そういうことであれば、今回の報告の功績分で多めに見てもいいかもしれんな。
 しかし、事態は既にオハアム探査に限る話ではなくなっている。
 定例報告の間隔を短くした上で、政治的動静に関する内容も仔細報告するように。以上だ。」

ああ、私のバカバカバカ。
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