2020-03-15

忠尤無悲 No.22~No.24

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No. 22

良い予想と悪い予想
どっちが当たると聞かれれば
もちろん答えは決まってる
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No. 23

案の定であった。

今私の視界の先には、四肢が太いつるになったクソ犬がうろついている。
歩くたびにくっちくっちという奇妙な音がする。

先ほどのあの瞬発力の正体は、腐って千切れた足の代わりに形成された、この螺旋状の構造物がバネのような役割を果たしているからか。足音もだろう。
全身に巻き付いたつるに、眼窩から飛び出すように咲いている青白い花は若干滑稽だったが、それがこのクソ犬の危険性を緩和してくれるわけではない。

ちりりん、ちりりん。ドちくしょう!

クソ犬が動くたびに音を立てる首輪の鈴が、私の神経を逆なでした。
再び熱くなりかけた頭を意識的に冷まし、これからのことに思考を戻す。
残念ながら、態勢を整えるための合流には失敗した。二度目の逃走もおそらく不可能。
ここで下手に動けば気付かれておしまいだ。
つまり、私は単独でこの脅威を切り抜けなければならない。

どうすればいい?
私は必死に脳神経に養分を送った。
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No. 24

音だ。
奴はきっと音で周囲の物を認識している。

眼は見ての通り、花に潰されてしまったのだろうし、鼻の方はこの腐敗臭である。
いくら元が犬とはいえ、これを貫通して私の体臭(なお、そんなものはない)や服のニオイを感知できるとは考えにくい。その推理に基づいて、最大限の戦術を立てるしかない。
下手なちょっかいは、きっと最悪の事態を招くだろうが――残念ながら検証を待つ時間はなさそうだった。

そうなると、肝心なのは「薬指」の射程と火力だ。
今回の聖務にあたって初めて携帯を許されたが、訓練で数回起動実験をしたに過ぎないため(サボらなければよかった)、どの程度の範囲・距離をどの程度“潰せる”のかの感覚がないのが悔やまれた。
確か訓練では、5歩ほどの距離からヴィスカ製の胸甲に指の直径ほどの穴とそれらの周りに蜘蛛の巣状の破壊痕を作れた記憶がある。それが、薬指を除いた位置に4本分。平時の殺傷能力としては十分だろう。だが、今はそうではない。
それに“穴を開ける“ということは、呪液の噴出口を作るということだ。しかも4カ所。
どれくらいの距離、ぴゅっぴゅするか、極めて予測がしにくい。
そうなると、5歩の距離では「返り血」を浴びる危険性を払しょくできない。
なら、8歩の距離からだと威力はどこまで下がるのか、それにこの服はどこまで呪液を防げるのか……
思考は尽きなかった。
だが、そうも言っていられない。やるしかないのだ。出たとこ勝負は嫌いでも、命を賭した荒事ってやつを。

絶望的な気持ちを抑えるように「今こそ話そうもげた薬指」の樹符を右手で強く握りしめながら、私はもう一度クソ犬を睨みつけた。
果たしてもげるのは奴か、それとも私の首か。

……いや、やっぱ無理。
音を殺して、なんとか横を通り過ぎよう。
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