2020-03-01

忠尤無悲 No.19~No.21

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No. 19

いつものように私たちは遺跡に潜った。
酒場での打ち合わせのあと、私たちは四層探索の下準備を二日掛けて済ませ、出陣したのだった。

念のため詳しい状況を聞こうと老人の連れに接触を試みたが、残念ながら彼らは生還してすぐ、傷が完治するのを待つこともなくさっさとこの街を去って行方知らずらしい。
臆病風に吹かれたのだろうか?
でも自分の実力を適切に把握しているのは好ましい限り。
ともかく、衛兵による聞き取りで、老人のおおよその場所は分かっている。
それにけが人は、屍花兵にやられたわけでもなかったらしい。なら一安心。
無名のごろつき三人への直接尋問がなくとも大した支障はないだろう。

ちなみに四層に行くのは今回が初めてだ。片道で一日半くらいかかるらしい。
層が深くなればなるほど移動距離や覚えなければいけない地形が増えてつらい。あとひざも。
とはいえ、最近は二層程度なら雑談交じりに気楽に行けるようになっているのだから、人間の適応力というのは中々バカにできないものである。

さて、そんなこんなで歩き、話し、考え、休み、食べ、うとうとしているうちに四層に到着したのだった。
やはり、地下四層だというのに明るく屋外のようだった。
本日も晴天なり。
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No. 20

どうしようもないので、私はひとまず自分の既視感を信じてみることにした。
一般論として、ドレファドは他種族に比べて空間認識力と記憶力に優れている。
「足らず」である私がその限りかどうかの確証はなかったが、どうにもこうにもやってみるより方法がない。

私は水場から上がり、身体を乾かして一式を身に付け、来た道を戻った。
幸い、比較的早くに私は明確に記憶にある通路にたどり着くことができた。
足元にあるこの木の根は、確かに約1時間前に足払いを仕掛けてきたにっくき奴で間違いない。
現に、けつまずきそうになった時に付けたえぐれ跡が見て取れた。
ということは、この道をいけば、“あそこ”には行けるということになる。
気は進まないが、二人と合流しないことには状況が進展しないのも事実だった。

しかし、そうした場合どうなるのか?
あのとき私たち三人はバラバラの方向に逃げた。
でもラグとドウ・ラなら緊急の合流手段を事前に確保していた可能性もある。
それにあの二人は確かお互い用の交信の樹符を持っていたはず。
だが、それは希望的観測というもの。囮になったドウ・ラは深手を負ったかもしれない。
最悪の場合も……
いや、それは考えないでおこう。きっと大丈夫。

もっとも、仮にあの二人が合流できていたとして、一番重要なのは私が二人と安全に合流できるのかの方だ。
二人につながる交信の樹符は、残念ながら置き去りにしたカバンの中。

なら、四層の入り口まで戻って二人を待つか?
いや、今日初めて来たばかり。しかも四時間近く歩いた後だ。
その記憶を頼りに入口まで戻るなんてちょっと非現実的すぎる。

それともここで待ってみる?
いやいや、そんなの緩やかな自殺と変わらない。

なら……
二人との合流の可能性に賭けて、あそこまで戻るしかない。
上手くいけばよし。運が悪ければ、先にあの犬っころと合流することになるが……
次は逃げるの無理かも。

こうなったら……
私は胸元の下着の前ボタンをはずし、内ポケットをまさぐってアレを取り出した。
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No. 21

 残念ながら、私はここで死ぬ運命らしい。
先ほど通路を進んでいた時に発生した地鳴りのあとの“壁の脈動“――突如動き出した木の根が私の下半身を飲み込んで、もうしばらく経った。
全く身動きが取れないのだが、流石に腹から下を樹符で吹き飛ばして這い出るわけにもいかない。
 金で雇った使い捨て連中は、やはり肝心なところで役に立たなかったどころか、こちらに害をもたらした。
相棒は私の少し先に倒れている。先ほどから動いていない。私を庇って前に出なければ、あんなことにはならなかったのに。可哀想なことをした。
いずれにせよ詰みだ。

 仕事の割には長生きできた自覚はあるので、死に対する恐怖や後悔が意外に薄いのには我ながら驚いているが、惜しむらくは、この遺跡の秘密の一端に触れながら、後身にこの情報を我が手で伝えられないことだ。
ゆえに、最期の悪あがきとしてこれを記す。
願わくば、本国にこの手記が届き、わが遺骸がパルタ墓地で旧友に相まみえんことを。

 端的に要点を記せば、あの茶の原料はこの遺跡に自生する一部の樹木の花である。
その花は、元は青白いが、摘んだ後一定濃度の塩水に浸すと組織が枯死して黒褐色に変わる。
これが「黒蓮」の名で流通しているものの正体であった。そのため、原料の特定が遅れたのだろう。とはいえ、製法自体は至極単純なものだった。
 もう一つの問題は、この原料である青白い花の栽培が38号遺跡以外で可能なのか、という点であるが、他の調査班の情報を総合的に勘案する限り、可能であると思われる。
後述するが、種子の入手と管理さえ適切にできれば、量産体制の確立自体は難しくない。
そうなれば、カラコルテが不当に独占している富は、我らの手で広く世に行き渡ることだろう。
 ただし、この栽培法には一定の政治的リスクが付きまとうと判断せざるを得ず、そういったスキャンダラスな要件を加味してもなお利鞘のある商材なのか? と問われれば、若干首をかしげるところである。
無論、寿命の延長は万人の望むものであろうから、単純な損得勘定で割り切れるものではなかろうが、流通量を増やせば増やすほど上記懸念事項の露呈リスクは高まり、露呈後の被害領域は拡大する。
そうなれば、聖会――高貴なストールを巻いた腐れ木共――が、大義見つけたりと小躍りするであろうことが想像に難くない。
もし本国の方がこれを目になさったならば、この件についてはよくよく熟考されたい。

 前置きが長くなったが、つまるところこの花は――
(以下、損傷が酷く解読不能。この章は他の紙片とは紙質が異なる。)
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