2020-02-16

忠尤無悲 No.13~No.15

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No. 13

飛びかかってきた犬の歯牙をかなてこで受けるラグの両腕は、黒地のチュニック越しに分かるほどに筋肉が盛り上がっている。相当な力がかかっているに違いない。

「くそっ仕方ねぇ! いったん退くぞ!! バラバラに逃げろ!」

不意に力を緩めて勢い余らせる形で犬の攻撃を受け流す一方、空いた手で素早く煙幕を取り出す。
プシューと音を立てて黒い煙が噴き出す中、ラグと入れ替わるようにドウ・ラが敢えて前に踏み込み、屍花犬をけん制した。
身体能力に勝るドウ・ラが引き付けて、その隙に私たちに距離を取らせるためだろう。
彼女が危険なのは言うまでもない。だが、目で追うのがやっとの速度で暴れまわるクソ犬だ。
身体的弱者側に選択権はない。

「音まで4秒!」

退きざまラグはドウ・ラに退くタイミングを伝えた。
いや、実際には私の尻を叩くためか。二人は私が大きな音に弱いことを知っている。
すぐさま私も踵を返して走った。必死に木の根をまたぎ、飛び出した枝をくぐって走った。
途中、背中の方にバガン!という破裂音を聞いた。

……どれくらい走っただろうか。
身体の熱が限界になりそうなところで、私は木のまたの下の空洞に飛び込んだ。
しばらく様子をうかがいながら、呼吸を整え、身体の放熱を一段落させ、空洞から抜け出した。
そして、そこで初めて私は全く見覚えのないところにいることに気付いた。
ひとまず犬は撒けたようだが、二人とは完全にはぐれてしまった。しかも手ぶら。
会敵時に荷物一式を下ろしてしまったのが悔やまれる。
まあ、荷物を背負っていたら、今頃犬のエサになっていたかもしれないが……

私はとりあえず近くの水場を探すと、マスクと服を脱いで身体を通常の体温まで冷やしながら、これからのことを考えることにした。
後悔は先に立たず。絶望は遅刻してやってくる。
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No. 14

その緑色にとらえられて、
私はひどく動揺し、逡巡した。決心はどこかへ去った。
左手を強く握りながら、ただ下を向くしかなかった。
そうして私は仕事に失敗した。
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No. 15

明確に判明したことは、あの青白い花が苗床にした素体によって、出来上がる屍花兵が全く違うということだ。
生態学上の体系的な研究にはもう少し時間とサンプル数が要るが、ひとまず出力結果がある程度予測可能になったのは善いことである。

例えば、フォーマとアニマノ自体にはそこまで大きな違いはない。
インテラはむしろ生前よりも弱体化する。加えて複数体が固まって素体化した場合の方がより危険度は大きくなりやすい……などなど。

今のところ確認できていないが、ドレファドやヴェパィムはどうだろう?
おそらくマインネイルは身体の構成素材上、苗床にはなるまい。このあたりはひとまず置いておいて……

では、人以外が素体になった場合は?
不確定要素を増やさないためにも、ある程度の理論化が進むまでは市長に遺跡への動植物の持ち込みを禁じてもらった方が良いだろう。

(この章は、他の紙片とは紙質が異なる)
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