2020-02-09

忠尤無悲 No.10~No.12

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No. 10

<サレーヴ諸部族同君連合国の介入について>

今のところ、目立った特定の集団が遺跡を調査しているという様子はない。
そもそも、諸部族同君連合国はオハアムの先取にはあまり積極的ではないように思われる。
アニマノが上位階層に多く、尚武の風、勇ましいかの国では、樹符などは肉体的に貧弱な他種族のみじめな小細工程度にしか見なされていないという風聞もある。

なら幸い。侮ってくれる相手の方が与し易いというもの。
まあ、いざとなったらカラコルテごと制圧・徴発してしまえばいいという腹積もりかもしれないが。こわわ。
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No. 11

「それでおめおめ帰ってきたの? はぁー、情けないね。もう本部に帰れば?」

クソイヤミめ! うんちうんち!

市長との会談を終え、重い気持ちでパイシア商会の社屋、本聖務の真の活動拠点に戻ってきた私を迎えたのは、アスペリのトゲつきこん棒のような言葉であった。
この現地エージェントは、仲間のホスピタリティってものを理解していないのではないか。
まあ、「舌禍のアスペリ・パイシア」で内外に知られる彼女であるから、これくらいは温情にあふれている方なのかもしれない。
それに寄る辺のない地で大家にケンカを売る入居者ほど愚かな存在はいないのだ。
私はそう自分に言い聞かせ、冷静になるよう努めつつ、彼女に市長との会談の内容を伝えた。

パイシア商会は、表向きカラコルテ周辺で建材として利用される遺跡産の木材や観葉植物を扱っている商社だが、その実態は、聖会のフロント企業の一つである。
政治的なあれこれで露骨に聖会支部を置けない地域には、たいていこんな木材商がいるらしい。
なぜなら、樹齢が一定以上のロヴァの木の伐採を行うには、社会通念上ドレファドの人員による鎮魂が必須のため、市井から隔絶されがちなドレファドが出入りしていても不自然ではないからである。
そんなわけで、ほぼすべてのドレファドは、疎密の個人差や表向き聖職かどうかの差こそあれ、結局、少なからず聖会とつながっているというわけだ。
おお、なんという秘密結社。

「……なら、仕方ないわね。別の手を探すか。
 アンタはもう部屋に行っていいわよ。」

一通りの報告を聞き終えたアスペリは、私への失望を隠そうとせず、一切の興味を失ったかのように踵を返すと通常業務へ戻った。
そして、手近な仕事中の労働者を捕まえて寸鉄で殺しにかかった。

「この愚図。アンタ何年やってんのよペコフ?
 私の確認なんか待ってないで、いつも通りのアンタのさじ加減でいいわよ。
 アンタの頭に斬新な判断なんて期待してないんだから。」
「へへへ、女将さんにはかなわねぇなぁ。」

このペコフというのは、黒悶弾で左のすねから下をひき肉にされた義足のフォーマの男で、パイシア商会では十年以上の中堅どころらしい。
一見、彼らの関係はひどいもののように思われたが、この力仕事を日常とする木材商の現場で、わざわざ片足義足の男を雇い続けているという事実の方に真実があるように思われた。

一般的なドレファドは、ほぼ確実に植物由来の二面性を持っている。
静かで穏やかな外面と、炎のように激しい内面のことだ。彼女の場合はどうだろうね。
アスペリはここ数年のうちに出産したと見えて、胸は平坦だ。まだ子房が再形成され切ってないと見える。
もしかして、出産のショックで内面と外面が逆転する病気にかかったのか? うふふ。
というような感じでやり取りを眺めていた私に気づくと、アスペリはきっと眉葉を吊り上げて言った。

「ボケっとしてないで、アンタもさっさと次の手を考えなさいよ。
 じいじはここにはいないわよ、お・嬢・様?」

うっせぇ分かってるわ! 外面ブス! えぐれ胸!
本当に腹立たしい。この仕事で出世したら会社に圧力かけまくってやるからな!
舌禍、舌禍。異なるかな!

Big sister is watching you(^^)(この行だけ筆跡・用いられた道具が違うようだ)
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No. 12

まさかこんなことになるとは。

決して油断していたわけではない。
遺体回収の仕事をするときは、万全を尽くしているという自負はある。
もちろん、二人に関しては言うまでもない。
私たちの情報分析と事前判断に手抜かりはなかった。

だが、人智には限界があるのだ。十六行詩で叡智の神ロベルがそう言っているではないか。

――汝が耳と目をもって世界を語るな。それは世界にも与り知らぬことである――

世界ひろしさんが知らんと匙を投げているのだから、私たちの想像の外の世界なんてものはいくらでもあるわけで、人生とは、万難を排したと思ったのち、新たな万難に襲われるものなのだ。

うんうんうん、認めよう。おお、ロベル、御身は正しくあらせられる。
だから、文句ぐらいは言わせてほしい。

犬の屍花兵がこんなに強いなんて聞いてない!!
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