2020-01-26

忠尤無悲 No.7~No.9

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No. 7

新調したヴィスカ製のかなてこの具合を一通り確認し、それぞれ個別に油紙で包装された例の組紐を6束ほど背負い袋に入れると、ラグはそれら一式をこちらに寄越した。

「授業料くらいは働いて稼げ。」

荷物持ちですと?
一般的に非力なドレファド、しかもちんちくりんな私にペンより重いものを持たせるなんて非道い!
けだもの! うんち!
憤慨する私の背中をドウ・ラが横を通り過ぎがてら軽く尻尾でぽふぽふとたたいた。
ここ最近、彼女は頻繁にこれをやるようになっている。ちょっと気やすい気がしないでもない。
まあ、悪い気はしないし、気が落ち着くのは事実。それもまた彼女の術中か。

「ほーん、その子が新入りね。」

そんな様子を微笑ましそうに、道具屋の主人、褐色の肌に短く刈り込んだ黒髪のフォーマ、ワーバーは、様々な工作道具の並んだ机の端を右手でつかみ、体重を掛けつ力を抜きつしながら私の方を眺めた。
大柄で筋骨隆々な彼の力の入れ具合に合わせて机はぎいぎい音を立てている。

「マルファナティです。」
「よろしくな、おチビちゃん。」

両手を広げながら歓迎のハグの姿勢。さあ胸に飛び込んでおいで。……丁重にお断りした。

「おいおい、将来のお得意様には失礼のないようにしとけよ。」
「へっへっへ。オレは客の選り好みはしない主義なんだ。」

やっとこ状の三本指の義手をカチカチ鳴らせて彼は続けた。
義指の一本にわざわざ結婚指輪をはめているあたりに彼の人となりが表れている気がした。

「それに、別に全くの初見さんってわけでもない。なんせ、そのマスクと上下一式、作ったの俺だからな。」

私の右耳枝を覆うマスクの角をつまみながら、デコピンの要領で軽く弾く。
音が反響するんだよやめろやめろ。うるさそうに手を払う私を面白そうに見る彼に普通にイラついた。
お前ら本当に気やすいぞ! これだからうんこする種族どもは!

「ま、市長の姐さんが注文書寄越したときは、どんな趣味だよって思ったがね。
 このお嬢さんを死体連中の中に投げ込むってんなら納得だ。」

それに気にいってもらえているようで何よりだ、と付け加えると、用済みとばかりに私は解放された。
まあ、実際に着ている身の私としてはいい仕事してますねとは思う。
特に毒を防ぐためのマスクのデザインに、毒鳥であるアオウズラをモチーフに用いるような彼の洒落っ気はなかなか私好みでもある。
不満といえば、耳枝が少し窮屈なことくらい。まあ、これは仕方ない。そもそもドレファドの耳枝は密閉に向いていない。
そうこうしているうちにラグは一通りの調達作業を終えたようで、作業中に指についた埃や油を親指の腹でこすりながらワーバーの方に顎先を向けた。

「ああ、その話だが。俺たち以外に死体のアレに気づいた奴は出てきたか?」
「いいや、まだ出くわして帰ってこられた奴はいなさそうだな。幸いなことに、いや不幸なことにか。」

ワーバーはカラコルテ市内の“腕の立つ“探険者への備品供給という点において、ほぼ独占状態の凄腕である。
片腕が義手でそんな難しい職務が務まるのか疑問に思って聞いてみたが、なんでも“素手”で焼き物をつかめるし、用途に応じてアタッチメントを付け替えられるしで、こっちの方が効率的らしい。流石は合理主義種族フォーマ。
そんなわけで、必然、ほぼすべての深いところに潜れる探険者の道具の使われ具合を把握できるのだ。
そうなれば、屍花兵や呪液による被害状況は確実に彼の目と耳に入る。
二人が私と彼を引き合わせたのは、単なる備品調達ルート紹介のためだけではない。
ラトンナの寝台の探索状況に関する重要情報源の一つを私に教えてくれたということでもあったわけだ。
屍花兵の呪液などが分かりやすいが、ここでは情報が割と生死を分かつ。

帰りの道すがら、ラグがぼそりとつぶやいた言葉が印象深い。

「裏切りや騙しとは人格的に無縁の奴、いるよな? だが、立場がそうさせることはある。」

つまり、情報源や判断材料は多いに越したことはない、と?
暗にバドンナル市長へ依存気味の私への忠告か。物事は多角的に視よとか云々。
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No. 8

「くっせぇなぁ! 葬式屋さんよ! 飯が不味くなんだよなぁ?」

テーブルを三つ隔てた先ぐらいから飛ばされるヤジ。ぶーぶーどんどんどん。罵声と机ドラムの聖歌隊。
だが、ラグは気にせずにライコ煮込みに舌鼓を打っている。

「おマル、あんたは肉ダメなんだっけ? 残念だなぁここの店の美味いのに。」

最近普及しだしたライコ瓜のソースを用いた真っ赤な羊肉の料理。時間を掛けて煮込まれたすね肉はほろほろで、一口大に分けるのにナイフを用いる必要もない。それに少し酸味のあるソースと絡まって旨味もすごくなっているとか。こういう時には種族ごとの食性の差というのを少し憎らしく感じる。
菜食万歳? うんちうんち!
一方のドウ・ラもドウ・ラで、刻んだジャーキーを乗せた豆粉の薄焼きせんべいにソースをかけてかりかりとほおばっている。
はなからガラの悪い連中など眼中になしといった様子だ。細長く涼しい顔が崩れる様子は全くない。
流石に耐えかねたので軽く二人に振ったのだが……

「あ、あの……いいんですか?」
「ああ、アレ? いいのよ、気にしなくて。」

そうは言れても、こっちは針の筵感が拭えないんだよ。
私は顔が割れないように、基本的に外ではマスクを着けたままで通していたので、二人が次の仕事の打ち合わせを酒場でと言い出した時は少し困った。
こんなところに来ておきながら、マスクを着けたまま一切食事をしない客なんて怪しすぎる……
ただ、それは取り越し苦労だったようだ。周囲の目は二人だけに注がれていたからだ。
そして定期的に浴びせられる雑音。うるせぇ……

「こんなようないつもの感じです?」
「そうだけど? まあ、ここは探険者のみなさん御用達だからな。」

探険者にとって、二人(厳密にいえば私もだが)は忌むべき存在なのだ。
言ってしまえば、死肉に群がるハエであり、否が応にも自分たちの不幸な“もしも“を想起させる。
古今東西、自由業者は縁起を担ぐものだ。理屈は分かる。分かるのだが……
二人は敵地で平然と飲み食いできるほどに神経が太いにしても、私はそうではないのだ。
怖いんだよ無神経どもめ! と思いかけた矢先、状況は好転した。

「よお、もう一杯ひっかけてたか。」
「まだ来たばっかだ。かけなよ。」

待ち人来たれり。酒場を指定したのは、二人ではなく衛兵のパアズだった。
そして、お供に別の衛兵三人。彼らは隣のテーブルをこちらのテーブルにくっつけて腰を下ろした。

「悪いな。こんなとこまで出張ってもらって。居心地はようございましたか?」

クェクェという軽い笑い声とともにパアズの大きな眼が半分に細まる。
嗜虐性といたずらっ気が混ざったまなざし。

「おかげさんでな。新年行事の二十四氏族無伴奏輪唱もかくやだ。」

とはいえ、衛兵たちが現れてから、周囲の罵声はピタリとやんでいた。
流石に衛兵まで巻き込んで喧嘩を売ろうというような向こう見ずはいないようだ。
実際、猛禽系アニマノのパアズに、大柄な甲虫系インテラの三人という衛兵の組み合わせは威圧感抜群である。
並のフォーマ連中数十人程度では逆立ちしても敵うまい。

「さて、そんなことは良いんだよ、そんなことは。仕事の話、しようぜ。」

パアズは部下たちに蜂蜜酒をふるまい、自身はラグがつついていた鍋から大きめのすね肉の塊を取り分けると、少し冷ましてから丸飲みした。こいつもか……
そして私の辟易を尻目に、このでかいミミズクは本題に入った。
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No. 9

勇敢なる義士に、シスの歓心を
(文書発見時、近くにあったヴィスカ片に刻まれた文字)
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