2020-01-19

忠尤無悲 No.4~No.6

Pocket

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
No. 4

人が潜らなければ屍花兵は生まれない? 正解!
屍花兵が出なければ遺体回収業の仕事はいらない? 正解!

なら、遺跡を封鎖すればみんな幸せ? はい、大不正解!!

遺跡にしろ青白い花にしろオハアムにしろ、何らかの理由で「死体が動く」という謎がある以上、人の好奇心と欲望に首輪をつけることはできない。できるわけがない。

愚問も愚問、休むに似たり。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
No. 5

「悪いが、他の連中の事情まで教えてやることはできん。」

バドンナル市長は、輝灰岩のクスクスに大量の塩をドババと振りかけながら続けた。
他勢力の関与具合について、会食にかこつけて市長から聞き出す作戦は失敗した。
目の前の仕事に慣れてきた次の段階は、“敵・味方”のあぶり出しと思ったが、出だしからつまづいた形になる。

「いけません? なんとかそこ? このとおり。」
「くどいぞ。飯が不味くなるからこの話は終わりな。」

取り付く島もない。
市長はガパッと開いた下あごの空洞に砕かれた岩をフォークでかきこんでいく。
うわあこの人、建材に塩かけて丸飲みしてるよ、それが忌憚のない印象だった。
石喰いであるマインネイルの食事は、理解はできるが共感は無理な気がした。

「食べてみるか?」

私はこちら向けに供された細かく刻んだ青菜の蜂蜜漬けを少しつまんで丁重にお断りした。

「ああ、ドレファドは塩食べ過ぎると体壊すんだったな。失敬。」

そういう問題ではないのだが、市長は少し残念そうだった。

「まあ、本部に増員の打診はしたんだろう?
 その手の“仕事”が得意な奴は、兵武聖省や説理聖省あたりにいくらでもいそうだがな。」

市長は”塩ふり建材”をゴリゴリと食感を楽しむように咀嚼してから飲み込んで一息ついた。

……実は断られたとはすごく言いづらい。
政治的にデリケートなこのカラコルテに、短期間に何人もの“聖職者“の派遣が難しいという事情もあるが、実際のところ、本部は「38号遺跡 ラトンナの寝台」の探査の優先度を低く設定しているようだった。
私の報告書が完全に信用されたかは別にして、とびぬけて危険な神聖生物級の脅威があることは認識してくれたらしい。だからこそ他勢力も含め、遺跡調査上の急速な事態の進展はないと判断したようだ。
長期戦の構えということか。
無論、クブカズ共和国あたりが派手な動きを見せれば、彼らも考えを改めるだろうが、いずれにせよ、当面私が孤独な戦いを強いられるというのは動かしがたいものだった。

しばしの沈黙、音源はゾウガメの規則的な足音のみ。
私の無言の愛想笑いから援軍要請の失敗を察した市長は、憐みのこもった眼を私に少し向け、それから下を向いて建材に視線をそそぎながら続けた。

「まあ、ラグとドウ・ラに近い分、あんたが有利な立場にいるのは間違いないがね。
 他の、たとえばクブカズなんかは金にモノを言わせて傭兵連中をぽこじゃか送って来てはいるが、成果は怪しいもんだ。」

それは事実だった。今のところ、あの二人以上にラトンナの寝台を知り尽くしている者はいない。
ましてや巷に文字通り“腐る”ほどいる探険者に関して言えば、屍花兵の存在自体を知らない連中がほとんどなのは意外だった。
仮に知っているにしても神聖生物の一種ぐらいの認識であって、完全に「おらぁ見ただよ」レベル。
まあ、攻略法を知らない並の探険者ご一行が屍花兵に遭遇するというのは、全滅とほぼ同義ということでもあるので、下手に存在が明るみになって、「なんぼのもんじゃい」というような勇み足の苗床候補が増えるよりはいくぶんマシではあるが。
これは最悪、足掛け数年か……と少し憂鬱な気分になったところ、

「失礼します、市長。インツェツェンツァ様がお見えになっております。」

不意に呼び鈴が鳴り、ドア越しに秘書官が別の客の来訪を伝えた。
市長は眼だけをドアの方に向けると、水を一口飲んで喉を洗ってから返答した。

「ああ、噂をすればだ。定例報告の日だったな。少し待ってもらってくれ。」
「かしこまりました。」

桃ゲルちゃんはこんなところにもしっかりコミュの輪を広げていらっしゃるのかよ、恐ろしや。そこのゾウガメとか懐いてそうだし。
去っていく秘書官の足音を背に、私は場を切り上げることにした。食事を終わらせ、口のまわりを食卓脇のポットの清水と手ぬぐいでふき、マスクをかぶる。
彼女に捕まると恐らく面倒くさいし、成果につながらない雑談をだらだらと続けるのはあまり好きではないので、良い口実でもあった。

「では、これで私が失礼を。」
「ああ。焦らずにやるんだな。困ったら二人を頼れよ。トーデの加護あれかし。」

市長はふうと息を吐いて食器を脇によけ始めた。意識は既に次の客に向けているようだ。

トーデの加護あれかし。便利な常套句だといつも思う。
今回の意味は、“とっとと帰れ“と言ったところか。あてはずれ!
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
No. 6

【カラコルテ主要輸出品 卸値相場表】

・緑豆粉 一袋185ペズ 代金:43ウルクス
・塩 一袋185ペズ 代金:21ウルクス(特産品割引適用)
・布地(遺跡一層産ツリエラ製優品) 一巻き1.5ダウ 85ペズ 代金:647ウルクス
・花(黒蓮) 一袋15ペズ 代金:42,941ウルクス
・古文字が刻まれた遺物 大小様々ペズ 代金:時価。場合により城・領地など

勤労志向は歴史的大敗を喫した。ばかくさ。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^