2019-12-31

三身一体 No.25~No.27

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No. 25

屍花兵へ対処する上で、奴らの最も危険なところは?

斬ったり殴ったりでは活動を止められない驚異的な生命力?
柔軟に動くつるを使ったオールレンジ攻撃?
聞く者の耳と心を潰す生理的嫌悪感を感じさせる咆哮?
ニオイ?

残念ながらどれも不正解。
答えはやつらの腐敗液こと「呪液」である。

この呪液は非常に強い腐食性を持ち、マインネイルやヴェパィム以外の人が触れようものなら、触れたそばから皮膚が焼ける。
しかもそれだけではない、病魔の温床なのだ。
仮に頭から被れば、翌日には身体の方々に熱を持った膿疱が発生して夕方には死ぬ。
そして、その死体は新しい屍花兵の苗床となるのである。
だからこそ、奴らへの対処で重要なのは、いかに呪液をぴゅっぴゅさせないか、なのだ。

だが、奴らは基本的にこの呪液を攻撃の手段としてところかまわずぶちまけるし、さらに運よくそれをかいくぐって奴らを斬り付けたとしても、斬られたところからコレがぷしゃーっと噴き出す。お手上げである。
だからこそ、ラグやドウ・ラは遠距離から奴らを燃やすことに心を砕いて戦術を練った。
本来、近接戦闘が得意なアニマノが射撃に専念しているのも、ラグの主な武器が刃物ではなく、かなてこや油を仕込んだ組紐なのも、そして私のオハアム、液体を一時的に固める「あおあおしき芋納屋のいくさば」も。
この即席チームの構成は、あらゆる面で対屍花兵を想定したものだったのだ。

大祭幹どののご慧眼たるや。ありがたくて涙も出ねぇや。
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No. 26

「終いだ、クソども。」

露出した女の部分に、ラグはかなてこを投擲した。
細く尖った先端部分が、汚れた金髪を貫く。
屍花兵は一瞬、ビクンと全身をのけぞらせると、活動を止めた。

つるが繋ぎの機能を失ったことで六本の脚は折れ曲がり、地面に倒れる。
そして三人の遺体が、ばらばらぼろぼろと炎の中に崩れ落ちていき……
しばらく後には肉と植物と骨が焼けるニオイだけが残った。
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No. 27

「よう、おつかれ。ッてて……」

ラグが肩や太ももをはたきながら近寄ってきた。ドウ・ラが駆け寄り、身体を支える。
見れば、ラグの上半身は油のようなものにまみれており、しかも頬や腕には細かなガラス片が多数突き刺さっていた。

「油一つに無茶し過ぎよ。」
「しゃあねぇ。ただ投げるだけじゃ、叩き落されるのがオチだったろうからな。」

あの爆発の際に、自分が巻き込まれるの覚悟で油の瓶を破裂させていたのだ。
組紐の油に効率的に引火させるための、呼び水としての別の油、さしずめ死に水。
あるいは、臨終の間際に塗油する聖油か。
ドウ・ラは空いた手でラグの頬を清潔そうな布で拭い、傷口に塩を塗り込む。

「良い反応だったわ、マルファナティ。」
そして彼女は首だけこちらに向けながら、私を労った。

「ここでいい。後はいつものだ。」

黄色い火柱のところまで歩いていくと、ラグは身体のガラス片を抜き取りながら息を整え、目をつむった。
 
 
鳥は林と 契りしを
林枯れぬれば 鳥は鳴く
みつせの川を 渡らむを
死出の山の端に 芽ぐむとみん
 

……ラグの歌は、普段の彼からは想像もつかないほどの麗しく哀しいものだった。
今では歌われなくなって久しい古い葬送曲4番、「再誕を待つ者たちの歌」。
歌が終わりに近づくにつれて、炎もまた小さくなっていった。

「さて、じゃあ回収だな。おマルは俺と骨拾いだ。このツボに仕分けたのを集めてくれ。」

遺体が燃え尽きると、ラグは背嚢からハシと人の頭くらいの大きさのツボを取り出して、燃え残りから骨を手際よく取り分け始めた。私の担当は、その遺骨をツボに収めていくことだった。
一方、ドウ・ラは姿勢を低くして地面を注意深く見つめ、何かを探している。
何をしているのかと手を止めてそちらに顔を向けていると、そばにいたラグが私のマスクを軽く指で弾いた。

「おら、人の“花摘み”をじろじろ見てんな。さっさと終わらして帰るぞ。ッくっせぇ……」

花摘みとな。それは失敬。ドウ・ラも女の子である。

そうして、ツボの半分が埋まるころには、遺骨はほとんどなくなっていた。
三人分にしてはさみしい量だった。
ラグはツボに厚手の布で封をすると、背嚢にしまった。
ドウ・ラも何かを終えたようで、腰のポーチのピンを一通り止め直し、手をぱんぱんと軽くはたきながらこちらへやってきた。

これで初仕事は無事終わったようだった。本当にお疲れ様、私。

帰り支度の段になると先ほどの興奮状態が大分落ち着いてきたため、ここに至ってようやく今まで見たもの、起きたことについて、少しずつ私の思考が追い付いてきた。

遺跡の謎、動き回る屍体、寄生植物、ラグとドウ・ラ、バドンナル市長……
考えるべきことは山ほどあった。
だが、中でも私が、私の聖務として最も優先しなければいけないこと――
かりそめの遺体回収業者としての役割以上に、本職として優先しなければいけないことがあった。
何はともあれ、“ソレ“である。
だから、精一杯、精密に言語機能を操る努力をして、私はこう言った。
 
 
「あんなオハアムを、あなたはなぜ、使えたんです?」
 
 
私の問いに、ラグは黙ってひげを抜きながらそっぽを向いた。
 
 
 
三身一体 終
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