2019-12-30

三身一体 No.22~No.24

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No. 22

カンテラの灯りに最初に照らされたのは、六本の脚だった。
めいめい、長靴や布地、はだし、骨、腐った肉、大まかに近い様相のものが一対ずつ三種。計六本。
それらには植物のつるのようなものが絡みついていて、所々に小さな青白い花が咲いていた。
そして、湿り気のある音とニオイの原因は、黒く変色しつつある暗い黄土色の液体――腐敗液としか言いようがないものが、つるとつるの間から定期的にあふれ、床にシミを作っていたためだったようだ。
思わずえずきそうになる。

「シッ、声を出さないで。」
ドウ・ラが私の背中をさすりながら、声を潜めて言った。

「初仕事よ。」

視線を戻した先、灯りが映し出したのは、私の想像を超えた存在だった。
正面から見たソレは、二頭立ての馬車に似ていた。
つまり、二人の男の腐乱屍体が前のめり気味に立っていた。つるで繋がって。

右側の男は赤茶色になった眼をぐじゅぐじゅとせわしなく動かしていたが、あごはなくなっていた。
左側の男は顔の右半分は既に骨が見えていて、目の部分はもう空洞だった。
その崩れかかった部分をつるが絡み合って繋げている。
二人は手を繋いでいるようにも見えたし、いずれも生前身に着けていたものを判別できた。
片方は革鎧、もう片方は胸甲。

だが、下腹部から下は違った。つるが根茎のように複雑に絡まり、二つの上半身を繋ぎ留めつつ、その塊からさきほどの六本の足が生えていた。
そして、その根茎の真ん中にもう一人の上半身分くらいのつるの塊。
言うならば、“6本脚の双頭の馬の背にまりもが乗っている”、そんなシルエットだった。
 
 
なるほど。なるほど、なるほど。
 
 
これがオハアム絡みであれば、手に入れたがる奴が色々なところにいて当然だ。
気が知れないけど。
 
 
生理的な恐怖と、自分が関わっているモノのヤバさという事実に殴打され、気を失いそうになった私を現実に引き戻したのはラグだった。仕掛けたのである。

六本足の“ソレ”がラグの隠れた場所に近づいたとき、ラグが一本の組紐をソレに投げつけた。
組紐は左側の男の部分にたすきのような形で巻き付く。
不意打ちに警戒態勢をとるソレ。ラグはソレが私たちの方に背を向ける格好になるように、物陰からソレの前に躍り出た。ラグは組紐をスリングのように手元で回転させている。

「みっともねぇな、クソガキども……自分たちのケツも拭けねぇなら大人しくしてりゃ良かったんだ。
 挙句、“屍花兵”たぁ、大人に迷惑かけてんじゃねぇよ。」
 
 
――グゴォオオオオッッッ!――
 
 
屍花兵と呼ばれたソレは咆哮した。これが始業の予鈴であった。
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No. 23

セーラサニアみたいな人を襲う植物は有名だけど、生物に寄生する植物のことも当然みんな知ってますよね?

植物同士ならロヴァに寄生し、よく枝から垂れている丸い「トリノキ」が有名。
キノコ系にまで手を広げれば、例の、アリや芋虫に寄生するものが思い浮かぶでしょう。
だいぶ昔、インテラの祭枝に冗談半分にそれらを見せたところ、すごく嫌な顔をされたのを覚えている。

それはさておき、植物や虫に寄生することができるなら、理論上、ドレファドやインテラも寄生される可能性があるのだろうか?
答えは分からない。
だが、これだけは言える。

「死体に寄生して人を襲う植物は存在する。」

うん。すばらしき実証主義!
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No. 24

そうして私の五感は半殺しにされた。

屍花兵の咆哮は狭い空間を反響し、私の耳枝を波状攻撃した。
目の奥がグワッと圧迫され、みちみちと音を立てる。感覚が鋭敏なドレファドには致命的な一撃だった。
マスクの生地が多少音を相殺していなければ昏倒していたかもしれない。
かろうじてドウ・ラに支えられて姿勢を戻した。

だが、ラグはそんなものは意に介していなかった。むしろ、隙と見立てたようだ。
すかさずラグはさらに二本目の組紐を屍花兵に投げつける。
今度は先端の尖った重りが二体の後ろにあるつるの塊の部分に刺さり、紐の部分は勢いそのまま絡みついた。
屍花兵の左側が憤ったかのように、ぐわっとあごを大きく開く。

そして、この調子で三本目……とはいかなかった。
屍花兵は引きずっていたそれぞれの外側の手の部分のつるを持ち上げ、鞭のようにしならせてラグに反撃した。
左右のつるの先には彼らの得物であったろう刃物二本と槍一本、それぞれ絡めとられて再利用されている。
ひゅおっと風を切る音が何度も何度も多角的にラグを狙う。明らかに生前よりも武器を有効活用していそうだ。
ラグは走り回りながら周囲の障害物や空間を巧みに利用して逃げ回りつつ、かろうじてかなてこで逸らすので精いっぱいだ。上手く小手やポールドロンの部分で受け流しているが、防ぎきれなかった数発が、ラグの頬や腕の肉を削いでいく。逃げの一手のラグ。このままでは……
だが、私の視線移動に気づいてもドウ・ラは動こうとしなかった。

「まだ。」

一応、構えは解いておらず、普段よりも太くなった尻尾を立たせ、小刻みに動かしている。
見殺しにする気はなくとも、仕掛けどころではないということか。
しかし、客観的に見れば、ラグがなぶり殺しにされるのは時間の問題のように思われた。
だが……

「もう耳は聞こえる?」

ドウ・ラの質問の意味を最初は分かりかねた。でも意味のないことは言わないはずだ。
私は言われたように耳枝に意識を集中した。
すると遠くから聞こえてきたのだ。
 
 
異なるかな ああ 亦た異なるかな
人子 何ぞ みづから生まれ立たんや
人子 ひとしく 世にはらからありと知るべし
しかうして 両人子の仁慈
死してなお 始終 繊芥の間なし

異なるかな ああ 亦た異なるかな
 
 
……歌?
そう思った矢先、転瞬、ラグが爆発した。

正確にはラグと屍花兵のいる付近の空間が、圧縮され、弾け飛んだ。
木の根や土、小石、屍花兵の両手のつるや武器がぐちゃぐちゃにかき混ぜられ消失し、冷たい風が吸い込まれ、押し戻された熱い風が塵を巻き上げた。
マスク越しにコッコッと何かが当たったのを感じた。
爆発の衝撃にラグは壁まで吹き飛ばされたが、上手く受け身を取ったのか、すぐに立ち上がった。
無事なようだ。
かたや屍花兵は、突然のことに対応できていない。
失った両手に動揺するかのように、よろよろと六本の脚で不規則にたたらを踏み、なんとか体勢を戻そうとしながら、あたりに腐敗液を巻き散らかしている。

「ドウ・ラ!」

ラグの合図に、ドウ・ラが即応した。
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