2019-12-29

三身一体 No.19~No.21

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No. 19
人生設計にはご注意めされ。

オハアムの“再発見”で、既存の世界認識は修正を余儀なくされた。
遠隔地との会話、火起こし、痛み止めなどなど、劇的に社会を改造するほどではないけれども、超常現象であったものを日常の一部に組み込んだことで、人々の生活は着実に変わりつつある。
これからも新しいオハアムが世界を変えていくだろう。
そして、世界が変われば、人は生き方を変えなければならない。

私は結実に失敗した個体として、「足らず」の号を与えられた。
成人前の私6人のうち1人が事故死したため、イチかバチかその死体も合わせての融合を図った結果、失敗。
私の言語機能や会話能力に大きな不具合が生じることとなった。

舌っ足らずは頭が足らず。
よく言われたそれは単なるレッテルで事実ではなかったが、六分の一人分の生きた植物性たんぱく質の不足により、私は他のドレファドと比べて明らかにチビで見栄えの悪い寸足らずと化していた。
それはどうしようもない事実で、見た目重視かつ権威主義者だらけの社会において、つまはじきにされるには十分な理由であった。
そういうわけで、私はそこそこの家柄でありながら、聖会の表舞台への参列を許されず、“政治的配慮”で与えられた教学聖省の古典研究員という閑職で飼い殺しにされていた。
それはいい。古典研究は天職だったから。私のイカレた言語機能は、かえって古文字の文法研究に役に立ち、ささやかな居場所を私に提供してくれた。

だが、その後状況は一変してしまった。前述の「三十七条の警句」である。
これにより、今まで学生らの中でも蔑視され、図書館の隅のカビと共生関係にあった古典研究という分野は、一躍上昇志向の強いエリートどもが群がる最先端領域となった。
そして、先行者利益を得た私は60歳台で準祭枝にスピード昇進した。はは!
このまま順調に研究を続けられていたら、20~30年、100歳に届く前には「足らず」という号はきっと外れていただろう。その予測は妥当だった。
聖会がオハアム欲しさに直接的に遺跡の研究に乗り出し、そこに古文字の専門家を派遣しだし、各国・諸侯もそれを真似しだすまでは。

今やオハアムの手掛かりとなる遺跡は、各勢力の専門家同士の戦場となって久しい。
それだけではない。遺跡はそもそも危険な場所なのだ。遺跡が遺跡になったのにはそれなりの理由がある。
重要な人物の墳墓には盗掘を防ぐための罠がつきものだし、滅んだ都市などには、滅ぶことになった理由の一つであろう神聖生物が巣くっていたりする。
中には、オハアムが防衛機構に利用されているような未知の代物もあるだろう。
聖会が遺跡を役職級の呼称で管理しているアレ。役職が危険度を表しているとするならば、大祭幹管轄級なんていうのは、最高クラス、手に負えないレベルを意味する。
だから「大祭幹管轄級38号遺跡 ラトンナの寝台」と書いて、「ヤバイとこ」と読む。

そしていまそこにあるわたくし。なんというどじ。
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No. 20

二層を少し進んだ時。ドウ・ラが不意に立ち止まり、つるが密集した一点を睨みだした。
ドウ・ラの尖った鼻先がぴくぴくと動いている。

「おい、どうした?」
「待って、ラグ。ここからかすかにニオイがするわ。」

ドウ・ラはつるの塊に向けて左手の親指を向けた。
その言葉を聞くや否や、ラグは懐から油の入った瓶を取り出した。
そしてつるの塊に浴びせ、火起の樹符で火をつけた。流れるような動きだ。
すると、焼き払われたつるの塊から別の通路が現れた。
なるほど、秘すれば花。

「うん。間違いないわ。ここからね。」

一瞬、左の鼻の穴を少し大きめに開けて、ドウ・ラは何かを確信したようだ。
すぐさま手近な床と岩にナイフで目印と思しきものを刻んでいく。
そして、焼き払ったつるの近く、目につきそうな枝の一つに白い布を結んだ。

「……おう、パアズ、俺だ。驚け、二層に未踏査区域があった。先入観は良くないよな。
 ああ、帰りの時は鼻がマヒしてたんだ。戦利品のせいさ。
 うん、ガキどもはお手柄見っけて舞い上がっちまったみたいだな。」

一方のラグは既に交信の樹符で、衛兵たちに連絡を取っていた。
話をしながら近くの木の根をやたらと蹴りつけている。イライラしているのだろうか。
市長との打ち合わせの時もそうだったが、“ガキ”という言葉を発する時に、明らかな怒気というか、強い苛立ちのようなものをにじませている。

「入口のあたりに目印を用意しておいたから、明日になっても連絡がないときは頼む。
 ……分かってるって。じゃあな」

ラグは交信を終わらせて樹符に向けてしかめっ面をすると、私に向き直った。そして、右の頬骨のあたりを指先で軽くかいてから、はぁと疲れたように息を吐いて言った。

「なあおマル、あんた最悪、死ぬ覚悟はあるか?」

????
いやいやいやいや。
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No. 21

この聖務に終わりはあるのだろうか? 愚問、きっと終わりはあるだろう。
少なくとも、自分が死ねば自分の分は終わる。
……その認識自体が間違いだったことに気付かされる。終わらないのだ。
死んだだけでは不十分もいいところなのだ。
考えてみれば、実際、私の身体の六分の一は既に死んでいるのに、こうやってこき使われているじゃないの。
そういうわけで、死んだ後も聖務は残り、引き継ぎに来た可愛い後輩クソ野郎どもにご迷惑おかけしてしまいゴメンね! することになる。目の前のソレは、そのことを示していた。
なので、ここで死ぬわけにはいかない。絶対に、絶対に、絶対に!
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