2019-12-18

三身一体 No.10~No.12

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No. 10

一層を進んでしばらく、別の一行に遭遇した。
我々とは別口で遺跡に潜る厄介者、いわゆる遺跡探険者のみなみなさまのようである。

「あ、お二人! こんにちは!」
その中の一人、桃色のヴェパィムが気さくに二人に挨拶してきた。
「いつもお仕事、お疲れ様です! お世話になってます!!」

身体のラインをくっきり出した衣服、明るく高い声。性自認は女性のようだ。
頭の上の黒色の切形エナン帽には、砕けた手枷のマークのワッペンが縫い付けてあった。
それにしても、元気がいい。

「よう、インツェツェンツァ。ご帰還としちゃいいタイミングだな。」
「分かってると思うけど、私たちがこれから潜るってことだから。」
「そうなんですね……ちょうどよかったです。私たちはいったん退散します。」

インツェツェンツァと呼ばれた彼女以外の者たちも、ラグとドウ・ラを見て何か察したらしい。同行の、特にフォーマたちは露骨に嫌そうな顔をしながら、私たちの脇を通り過ぎて行った。

「そういえば、こちらの方は?」

知り合いの中に見知らぬ者がいれば当然だろう。彼女は私にも関心を寄せてきた。不必要な他者との接触は禁じられているので……私があれこれ返答やごまかし上の整合性を考えていると、

「新入りなのよ。」

ドウ・ラの一言で複雑な説明の必要性は解消された。せっかくの助け舟だったので、最大限当たり障りのないよう隠蔽工作に努めることにした。

「マルファナティです。」

話好きが相手なら、べらべら話さないのが一番の防御というやつだ。

「マルファナティさんですね! 私はインツェツェンツァです。仲良くしてくださいね!」

この桃色ゼリーちゃんは私の予想したとおりのようで、一方的にまくしたてるようにしゃべった後、親しげに手を突き出してきた。オウ、これがコミュ強ってやつかよ。
ちなみに、その時に初めてヴェパィムと握手したのだが、革手袋越しでも分かるぷよよんとした柔らかさの中に少し温かみがあるという癖になる感触だった。

私をいじくりまわし終えると、彼女はラグとドウ・ラとの情報交換作業に入った。二人はなんだかんだで面倒見がよい。それに彼女も自然と人好きする感じだった。
ヴェパィムである彼女の顔は、出来るにもかかわらず特に他の種族の様相を真似たりしていなかった。だから彼女に表情というものはないのであるが、しかし、ほかの身体全部が友好的な気持ちを表現しているのだ。それが確かに伝わってくる。
これまでに会ったカラコルテの人たちは、ラグもドウ・ラも含めてどこかスレた印象を受けていただけに、彼女は新鮮だった。そして好感を持ったのも事実だ。

「まあ、また別の機会もあんだろう。とりあえず、ツレに置いて行かれるぞ。」
「あっ、いけない! それじゃあまた!! みんな~」

入口へと戻るご一行に駆け寄る彼女を見送り、私たちは歩を進めることにした。
それからしばらくは行楽気分、と言ったら少し聞こえが悪いかもしれない。だが、二人の雰囲気が今までにないほどに明るく、冗談を飛ばしあうくらいだった。
素敵な職場の空気感。ムードメーカーって大事なんだなあと私に感じさせた。

……後で分かったことだが、彼女はクブカズ共和国に雇われた探険者とのことだった。
つまり、商売敵としては最大の敵。もちろん、組織の話で彼女の人格とは別の話だが。

今後、彼女には多くの秘密を作ることになるだろう。
ああ無情。親方違いはすれ違うさだめ。
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No. 11

とんでもない臭気が部屋に渦巻いている。
バドンナル市長が言ったように、マスクがなければ私は気を失っていただろう。一般的にドレファドの鼻は鋭敏である上、この手のニオイへの耐性持ちはまずいない。
市長は平気なのだろうか。腐敗臭と甘ったるい花の香りのカクテルが、マスクの大仰なろ過部品を通してなおしぶとく生き延び、私の鼻から肺までの接続域をかき混ぜる。
そんな私の方をちらりと横目で見ると、白髪のフォーマの男は市長に目くばせしながら言った。

「おい。」
「大丈夫だ。構わん。」

市長の言葉を聞くと、男は市長の事務机に近づいて、机にあった厚手の布地の敷物を取って寄せるとその上に麻袋を置いた。何が入っているのやら、マスクの欠陥を疑いたくなるニオイである。
バドンナル市長は軽くうなずいて席を立ち、ギャッギャと金属音の足音を立てながら棚に近づき秤を取り出してくると、丁寧な手つきで袋を開けた。青白い花びらが見えた。
彼女は眼を険しくしながら、花びらから一部焦げたところをつまみ取りつつ、それ以外の無事な部分を丁寧に秤にかけては瓶に移していった。

一通りの選別作業を終えると、彼女は、量だろうか、帳簿に数字を書き記した。

「まあ、こんなもんか。もうちょっとどうにかなるとありがたいんだがね。」
「冗談がきついぜ元締め。火を使わんでとなるとドウ・ラの身が危ない。」
「それはあなたの方でしょう。」

フォーマの男が大げさに肩をすくめると、アニマノの女性は大きな尻尾を縦にゆっくり振りながら笑った。
バドンナル市長は、手元の扇を開き、二人のほうに向けて軽くシッシとやりながら言った。

「ご苦労だった。湯は用意してある。そのくっせえのを落としてまた来てくれ。話がある。」
「ひどい扱いねぇ。」
「配慮してるのさ。疲れてるだろうからな。」
「そりゃ、どうも。」

会話は終始にこやかな雰囲気である。三人はかなり気心が知れている関係のようだった。
一通りのやり取りを終えると、二人は私の方を不審に見つつ、部屋を出ていった。
そうして、ようやく私の機会が訪れた。

「どのような方で、二人なんですか?」
「ああ、これからの貴女の同僚だよ。」

バドンナル市長は、忙しそうに鼻元と窓の外の空気をかくはんさせていた。やせ我慢体質。
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No. 12

遺跡の中は、さしずめ木の「うろ」とでも言ったらよいだろうか。
根とも幹とも判断のつきにくい、とにかく“木”で覆われているのだ。
一部の木々の根本には地下水の小川が流れ、訪れる者にカラコルテの水源を理解させる。
また、木に寄生していると思われるツタやシダ植物の装飾によって、緑の城壁、回廊といった様相で、しかも、どこからか“陽”が差し込んでおり、灯りいらずである。
カラコルテの塩の下に、このような“密林“があると一体だれが想像できるだろう。
これは“遺跡観光”と銘打たれるのも納得だった。

だが同時に違和感もあった。短時間とはいえ、今まで“この密林”の中で一度も虫や獣を見ていないのだ。
この不気味さ……やはりオハアムの明らかな関与を確信させるものだ。

「初めてここに来る奴は、たいていそんな反応をする」
ラグが薄笑いを浮かべながら、“壁“に見入っている私に声をかけた。
「まあ、楽しめるうちに楽しんでおけばいいさ。」

少し引っかかる言い方だった。

「どうせ嫌いになるほど見ることになるのだから、さっさと行きましょう。」

ドウ・ラにせかされ、私は聖務に意識を戻し、少し離れてしまった二人の後を大股で追った。
探索の序盤は、長らく“内勤組“であった私にはつらかった。
二人は慣れたもので、遺跡をずんずん進んでいくのだが、私はそもそもの不慣れを差し引いた上でも彼らとは別に地図の作成をしなければならなかったり、後で清書して報告を上げるために会話からなにからを細かく記録しなければならないのである。
探索行は、目印になりそうなものや、歩数、二人の様子などを細かく覚える努力の連続であった。
認識力と記憶力に長けたドレファドであることのありがたみをこの時ほど強く感じたことはない。

「いい心掛けね。市から提供される地図や情報がウソかもしれないものね。」

ドウ・ラは歩く速度を落とすと、横に並んで格闘中の私の顔を覗き込みながら言った。
嫌味っぽさはない。ドウ・ラは純粋に仕事熱心さに好感を持ってくれているようだ。

「自分で確認したもの以外は、いざというときに役に立つ保証がないもの。」
「経験則か?」
「どうかしらね。」

ドウ・ラはクルルとのどを鳴らし、ラグはにやりと笑った。
なるほど、こういうのが二人の間か。あまり他人と親しく付き合うことのなかった私には、二人のこういう空気感は少し居心地が悪かった。しかし、羨ましくも思う。
この間に私が加わることができるだろうか? もちろん、仕事の一環としてではなく。

そんなこんなを考えながら、一層に関しては大過なく一通りの探索を済ませたのだった。
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