2019-12-13

三身一体 No.4~No.6

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No. 4

「お役所ってのは、不測の事態に備える必要がある。そう、お前らがおっ死んじまった場合だよ。」

バドンナル市長は煙草をくゆらせながら、ラグと呼ばれた男の濃緑の重瞳に視線を合わせた。
白髪のフォーマの男性とジャッカル系アニマノ、キア族の女性の二人は、少し複雑な表情を浮かべる。それを感じ取った市長は、含み笑いをしながら続けた。

「勘違いするなよ? お前らは凄腕にゃ違いない。そこは信頼してる。
 だが、凄腕頼みの仕組みなんてのは良くない。行政のやることとしちゃあ欠陥だ。なあ?
 だから別に保険がいる。」
「それで、このお嬢さんってことね。」

キア族のドウ・ラが私の方に尖った鼻先を向けた。振り返った勢いで腰ほどまであるきつね色の長い髪が優雅に揺れる。

「そうだ。六神の恩寵乏しきこの地にとってはありがたいことに、聖会がわざわざケツ持ち機関を用意してくれるんだとよ。彼女はそこの教官候補様ってわけだ。トーデの加護あれかし。」

市長の目線移動から自分の番が来たことを察した私は、言語野を最大限そつなく機能させるよう努めた。エージェントとしてファーストコンタクトでやらかすわけにはいかない。背中と手のひらの汗が濃くなる。

「マルファナティです。お願いよろしくです。」

私が頭を上げると視界にラグが入った。彼は無精ひげの浮かんだ細いあごを指先でぽりぽりとかいていた。私の視線に気付くと、彼はさりげなく顔を窓の方に向けた。
なんとなく気まずい雰囲気の中、市長だけは愉快そうに私の紹介を続けた。

「教学聖省所属の『足らずのマルファナティ』準祭枝殿。
 聖会管理下の遺跡の保全・古文字の解読が専門だそうだ。」

ただでさえ硬かった二人の態度は、この紹介でさらに悪化したように思われた。二人とも私がここにいるワケを十二分に察したに違いない。
あごを引いて、下からにらみ上げるような鋭い視線とともにドウ・ラが言う。

「バドー、意味分かって言ってるんでしょうね?」
「もちろん。」

市長は白くなった煙草の先をトントンと灰皿に落としながらにこやかに返すと、足元のゾウガメの甲羅を軽くなでた。市長の返事に対して考え込むような表情を浮かべるドウ・ラ。もう片方のラグは、黙ったまま喉元から抜いた白いにこげをいじっている。ただし、私を見る目は冷ややかだ。

悪名高きクブカズ発の「三十七条の警句」。聖会が自慢げに披露してきた数々の超常現象、“奇跡”という名のサギのタネ明かし。あれ以来、奇跡のネタ元「オハアム」という技術、そしてそれらを一般人にも使用可能にした「樹符」を巡って各地の有力者は蜂の巣を突いたような状況だ。
とりわけ、樹符開発において最も重要視されている古文字の研究および、古文字が用いられた物品の価値はうなぎのぼり。リバースエンジニアリングというやつである。そして、それらが出土する古代の遺跡となれば、宝の山と言っても過言ではない。
そのため、遺跡の領有・発掘調査の利権を巡っての暗闘や武力衝突は、ここ20年でもう珍しくなくなってしまった。表向きにはそれとは異なる尤もらしい理由で隠蔽されてはいるが。
私が把握している限りでも、クブカズ共和国の某植民都市の大火、インテラのロタルパ族を襲った土砂災害、鉱山都市アググの不法移民大量怪死事件などなど、後世の歴史書にまず間違いなく載るであろう、あれらすべてがオハアムの遺跡がらみとのことである。

なんともまあ物騒なニオイがぷんぷんしていらっしゃることですわよ。

そしてゲンナリすることには、このカラコルテもそんなヤバめな遺跡のひとつ「大祭幹管轄級38号遺跡 通称ラトンナの寝台」を擁する都市であり、つまり、性質の悪い連中の餌場のひとつなのであった。
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No. 5

カラコルテはお世辞にも恵まれた土地とは言い難い。
双子海と南部大森林地域の中間地点という立地のため、交易拠点としての価値がまったくないではないが、海に流れ込む河川がないせいで大規模輸送の拠点にはなりえないので、南部で貿易を営むキャラバンからは、道中の素泊まり民宿程度の扱われ方しかしていない。
また、この都市の周囲を占める塩の平原は、農耕とか畑作とかいうものを断固拒否しており、さらにはここを縄張りにするヒス持ちの地母神が頻繁に巻き起こすという塩の混ざった白い砂埃(一部ではカラ埃という蔑称があるそうだ)が人々の目鼻をいじめぬいている次第で、住環境としても劣悪極まりない。

では、なぜこんなクソみたいな土地が、にわかに諸勢力の注目の的となっているのか?
遺跡! 遺跡! みんなの飯のタネ!

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No. 6

遺跡には危険がつきもの。そのうえ命知らずもつきもの。
そういうわけで、定期的に帰ってこられないバカが出る。

各地の遺跡を管理している組織は、さすがに放っておくわけにもいかないので、
捜索隊と救助隊と遺骨収集団を兼ねた人員を大抵は確保しているものだ。

中には朽ちるままにしておくところもあるけれど、ここはそうも言っていられない特段の事情があるという。
そう、特段の。

今回の私の聖務は、そいつらに扮してこの遺跡におけるオハアム研究のフロント組織を築くこと。
そのためにラグとドウ・ラにはお世話になっております。
ちょっと腐敗臭が気になるけれど、これだけ聞けば、楽な仕事。そう思いますよね?

でも残念。そうは問屋が卸さない。上手い話には裏がつきもの。
あなたが偽装罠を仕掛けるとき、あなたもまた別の偽装罠の上の鯉。
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