2019-12-13

三身一体 No.2~No.3

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「三身一体」

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No. 2

「……とどのつまり、遺跡の探険者なんてのは、ロクな仕事じゃない。
 継げる家業や頼れる身内を持ってないとか、地道に金を貯められないとか、
 そういうどうしようもない連中が、イチかバチか狙いで流れ着いた先ってわけよ。」
「で、殆どは野垂れ死ぬ。」
「そういうことだ。夢破れてなんとかかんとか。」

ラグの息継ぎに合わせてドウ・ラが補足を入れつつ話が進んでいく。間の取り方から、ラグとドウ・ラ、この二人がそれなりに長い付き合いであることがうかがえる。
ラグは握り指と親指で下あごの白い無精髭を抜きついじりつしながら続けた。体毛の色のせいで老け込んで見えるが、実際にはかなり若そうだ。おそらく私の半分にも満たないくらいか。

「今回のこのガキ三人組もそういうこったろう。
 ま、それはどうでもいいんだ。たいして珍しいことじゃない。
 問題なのは、こいつらが帰ってこなくなってもう2週間も経つのに、見つかってねぇって方だ。」
「見つけにくいところで死んだか……あるいは“いつもの“ね。」

ドウ・ラが口角を少し上げながら言う。ジャッカル系アニマノのキア族である彼女の笑みは、口調の穏やかさに反し、天然の捕食者とでもいうべき怖さを漂わせていた。大仰そうに尻尾を縦ではなく横にゆっくり振っているあたり、今回の件に関してはあまりいい感情を持っていないらしい。
ラグもラグ。私の反応を空気で確認しつつも、決して視線を合わせようとはしない。
……招かれざる客というやつ? まあ、この手のにはなれっこなんですけどね。平常心、平常心。
しかし、“いつもの”とはなんだろう? 字面に反して剣呑な雰囲気が漂う。雇い主のバドンナル市長も低くうなり声を上げながら、他種族にとって眼にあたる発光体をまたたかせている。市長は5本目の煙草を消して嘆息すると、交互に二人の方に目線をやってから短く言った。

「すまんが頼む。」

ドウ・ラの流し目に気づいたラグは、目を閉じながら返答しないまま額に力を入れて眉をくっと上げた。再び訪れた気まずい空気の中、室内をゆったり歩いて回るゾウガメの足音が響く。
とっ、とっ、とっ。

少しの間の後、ラグは濃緑の重瞳を面倒そうにこちらに向けながら言った。

「そりゃどうも。ただ、この御方をいきなり“葬式“にご参列願っていいもんかね?」

彼の言い回しから市長は自分が咎められていると感じたのか、少し目線を落とし、コリをほぐすように首をまわしながら返答した。彼女の岩塩の身体の接合部同士がこすれ合い、ゴリゴリと鈍い音を立てている。

「習うより慣れろってやつだ。
 それにこの御仁、それなりの紋唱士らしい。自衛はできるだろう。基本お前らがカバーしてやってくれ。」

動きを止めてラグを見据える市長。彼女の言葉には先ほどのうしろめたさのようなものはなく、有無を言わさぬ空気をまとっていた。それを感じ取ったラグは肩をすくめ、ドウ・ラの方をちらりと見た。

「お気の毒ね。」

ドウ・ラの黒毛の尻尾が、すぐ横に来ていたゾウガメの甲羅をたおやかな様子でぽすぽすとたたいたのを境に三人はまた沈黙した。

……なんなんだこいつら。“詳細な仕事内容の説明”を求めるっつっただろ。
にもかかわらず、当の私を置いて、またしても三人のあうんの呼吸で勝手に会話が進んでいくことに流石に不快感を覚えたので、私はあえて仰々しい様子で、一つ一つの事柄を彼らに再確認することにした。
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No. 3

ラグの合図に即座に反応したドウ・ラが放ったヴィスカ製の火起の樹符は、屍花(しかばな)兵の左側の男の部分、ラグが先ほど巻き付けた組紐に突き刺さった。転瞬、組紐に深く染み込んでいた混合油に火が燃え移り、這うように広がってつるや青白い花々を焦がす。
腐肉と腐敗液から発酵したような炎のニオイが立ち上り、あたりを染めた。

樹符自体をまるで火矢のように使うなんて。さらには先ほどのラグの動き。防戦一方のように思われたラグは、その実きちんと彼の仕事を遂行していた。屍花兵の注意を引きつつ、ドウ・ラの反転攻勢の下ごしらえをしていたのだ。

――――グゴパァアアァアアァアァァッ!!!――――

屍花兵が人の発声器官を再利用して出したとは思えぬ絶叫を上げた。マスク越しにもかかわらず私の耳枝に重たい音の衝撃が伝わり、またよろつきそうになる。
屍花兵は威嚇を繰り返す。繰り返しながら、左側半身の炎を消そうと、右半身側が千切れ飛んだ手の先から腐敗液を床や壁にぶちまけ、そこに左側が躰をこすりつけようとしている。そんなナリになってもまだ生前の仲間への思いやりが残っているのか。

「よし、おマル。いまだ!」

ようやく来た私の出番をふいにするわけにはいかなかった。私は荒い呼吸を整えようと、胃の少し上あたりに意識を集中しながら息を吐いた。

「あおあおしき芋納屋のいくさば!」

オハアムの唱和、イョオオンという震えるような奇怪な音を立てて、屍花兵の手の先や地面の腐敗液が固着し、ゲル状になった腐敗液は消火作用を失う。屍花兵の目論見は外れた。

「よくやった!」

ラグが射線上から飛びのくと、ドウ・ラはすかさず炎にのたうつ屍花兵に樹符を撃ちこむ。
かちゃかちゃ、バンバン。
彼女の右手の機械弓が子気味の良い音を立てる。突き刺さった小さな“火矢“は、油と融合して瞬く間に黄色い炎へと変わっていく。次第にそれは背部の根塊にも燃え移って、複雑に絡み合っていた葉やつるを削ぎ剥がし、“つなぎ“がなくなった骨や腐肉が、からからぼととと散らばる。屍花兵の姿が小さくなっていく。
そうして二体の護りの間から現れたのは、激しくもだえるもう一体の上半身部分。
所々腐肉をのぞかせる長い金色の髪。胸元には濁った黄土色の腐敗液。強烈な嫌悪感を感じさせるそれは、元・脂肪のかたまりのようだった。なかなかでかい。

「核は女のだな!」

ラグとドウ・ラは目くばせしながら姿勢を低くした。
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