2019-12-13

No.1

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No.1

異なるかな ああ 亦た異なるかな
人子 何ぞ みづから生まれ立たんや
人子 ひとしく 世にはらからありと知るべし
しかうして 両人子の仁慈
死してなお 始終 繊芥の間なし

口ずさみながら、彼は唱和したのでした。
私の防毒マスクを越えてきたのは、そのときは腐臭と甘にがい花のかおり。
そしてそれを塗りつぶしてあまりあるほどの破裂する風だったのでした。

のたうちまわる、のたうちまわる。
くっせえくっせえ潰れた発酵臭に肉のニオイ。
骨の花と腐れ水があたりを占拠して散り散りになっています。
鼻を衝いて離れません。かき混ぜられた私の思科を、一体いいのかどうしたら。

「なるほど、それで?」

いつもの担当官がいつもの感じで鼻で笑った。加えて、周りにいた他の上級祭枝のお歴々も懐疑と侮蔑と好奇心が混ざった目を私に向ける。無理もない。私の口述は機能不全である。というか、そもそもアレは口頭での説明が難しい。仮に私の言語機能がまともだったとして、適切に伝わるかどうか怪しいものだ。彼らの内心の嘲弄が直接頭の中に聞こえてくるようだった。ぷかぷかどんどん。
まあ、どうせ後で書面で報告するし、そっちで伝わればいい。障がい者に無理言って口頭説明をさせたこいつらが悪い。構わず私は続けようとした――

「やあやあ、遅れてゴメンね!」

重く粘り気のあるドアの音とともに滑り込んできたのは、緋色のストールをまとった初老の男。聖会に所属する者なら誰でも分かる、最高位聖職者の印。大祭幹(だいさいかん)殿の証。にこにことした笑みを浮かべ、軽快な小走りで大官椅子に近寄る彼に反し、周囲の空気は緊張感で包まれ、私の猫背も正されたのだった。

「ああ、キミか! いやー、よく戻ったね! 大変だったでしょう?
 途中まで話が進んでいるところで悪いけど、一通り僕にも聞かせてくれるかな?」

灰色がかった赤錆色の眉葉の下の濃い青が細まった。
だが、決して好ましい印象ではない。隠しきれない老獪さと酷薄さがにじみ出ている。
眉間と目頭のあたりに深く刻み込まれた、笑いながらも崩れないしわからは、強烈な権力闘争の経験値とかすかな死のニオイがした――噂のとおり恐ろしい方なのだろう。

いやあ、舌禍、舌禍。異なるかな。
受け答えの失敗は身の破滅。私はポンコツの言語野となんとか折り合いを付け、慎重に言葉を選びながら、再度ことの始まりから説明をすることにした。

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